愛媛大学理学部 沿岸環境科学研究センター

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生物環境試料バンク(es-BANK)を活用した環境・生態系汚染の歴史トレンドの解明と将来予測

先の震災のような災害が発生した際や、新たな化学物質による汚染が社会問題化した場合には、「その汚染はいつ始まったのか?」「どこまで広がっているのか?」「今後どうなるのか?」といった疑問が生じます。これらの疑問に答えるには、汚染実態の時空間的な解析が必要であり、現在の汚染レベルを発生源周辺で計測するだけでは不十分です。過去に立ち返って汚染の歴史と広がりを解析し、かつ各種化学物質の生産・使用実績等を踏まえて汚染実態を理解することで、将来予測につなげることが必要です。汚染の歴史を体系的・包括的に解析するには、海底の柱状堆積物試料のほか、環境試料や野生生物の保存試料が有効な役割を果たします。しかし、これらの試料を過去に遡って採集することは不可能なため、長期間の継続した試料採取と適切な保存・管理が重要です。このようなニーズに応えるため愛媛大学に設置されたのが、生物環境試料バンク(es-BANK)です。

es-BANKは、大学構内に設置された大型の冷凍保存施設で、半世紀前から世界の広域で採取された環境試料・野生生物試料が保存されています。これまでに採取された試料は、スナメリやネズミイルカなどの鯨類試料、タヌキやネコなどの陸棲哺乳類試料、カワウや猛禽類などの鳥類試料、ティラピアやカツオなどの魚類試料、堆積物や大気などの環境試料など、多種多様です。また、試料の採取や保管・管理の一元化により、既存POPsや新規POPs、POPs候補物質、重金属・水銀など、多様な化学物質による汚染の時空間分布の解明に利用することができます。野生生物や環境試料の採集・分析には多大な労力と時間を要するため、多くの研究において対象生物種や調査地域・分析対象物質が限定されるという問題がありました。es-BANKの試料を有効活用することで、汚染物質の地理的分布や体内挙動、生物濃縮、代謝特性等についてグローバルかつ比較生物学的な研究が可能になります。このようなスペシメンバンキングの重要性は世界的にも広く認識されおり、欧米には複数のスペシメンバンクがありますが、日本でこの規模の施設を有するのは、愛媛大学と国立環境研究所のみです。当es-BANKでは、化学物質の放出源として重用視されているアジア−太平洋地域の試料を豊富に有していることから、これら地域における化学物質汚染の広域分布と経年変化を包括的な視座で解明することが可能であり、そのことは当研究室の重要なミッションと考えています。

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