愛媛大学理学部 沿岸環境科学研究センター

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アジア途上国における化学汚染実態の解明

アジア−太平洋地域には、中国、香港、韓国、台湾、インド、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムなど急速な経済成長と人口増加をみせる国々が存在し、世界で最も人間活動・産業活動が活発な途上地域です。一方で、こうした新興国・途上国では、PCBs含有廃棄物の管理、ダイオキシン類等非意図的生成物の発生源対策、病害虫駆除のためのDDT等有機塩素農薬の使用、石炭燃焼による水銀の放出などについて、経済的事情、法整備の遅れ、公衆衛生上の問題など様々な理由から、環境汚染防止対策が十分とは言えません。したがって、化学物質による環境汚染問題は、先進国ではすでに解決あるいは改善されているにもかかわらず、新興国・途上国では深刻化している場合があります。

これらの国々における無秩序な化学物質の使用・放出は、様々な空間スケールで環境問題を引き起こします。例えば、移動・拡散性が比較的小さい重金属類やダイオキシン類などは、発生源付近で著しく高濃度になり、労働者や周辺住民が特異的に暴露されるケースがあります。具体例として、インドやベトナムにおいて、電気・電子機器廃棄物(e-waste)や鉛バッテリーのリサイクル業従事者の母乳や血液から、ダイオキシン・臭素系難燃剤・鉛・アンチモンなどが高いレベルで検出されています。一方、移動・拡散性の高い残留性有機汚染物質や水銀は、国境を越えて広域的な汚染を引き起こします。これらの化学物質は、発生源から大気中に放出されたのち、一旦は拡散・希釈されて環境中レベルが低減しますが、海水と大気の間の分配や食物連鎖など種々のプロセスを経て、最終的には海洋生態系の高次補食生物に高濃縮されます。かつて北極や外洋性の生物から検出された有機・無機汚染物質は、先進国の産業活動に由来するものが主体でしたが、今後はアジア諸国の寄与が増加すると推察されます。すなわち、新興国・途上国で増大する化学物質の使用・放出は、自国内での深刻な汚染に加え、地球規模の汚染を通して野生生物やヒトに悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、当研究室では、アジア諸国で環境試料や指標生物を採取し、局域的・広域的モニタリングを実施して、アジア−太平洋地域における化学汚染の地理的分布や汚染源の解明研究に挑戦しています。

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ガーナのe-wasteのリサイクル工場

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イガイを用いたアジア地域における汚染分布の解明

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ベトナム 電気・電子機器廃棄物(e-waste)のリサイクル工場
電気・電子機器廃棄物(e-waste)や鉛バッテリーのリサイクル工場