愛媛大学理学部 沿岸環境科学研究センター

research

水圏環境に残留する生活関連化学物質の生物濃縮性および生態影響に関する研究

私たちの身の回りにある製品には数多くの化学物質が利用されており、私たちは快適さ、利便性など様々な恩恵を受けています。一方で、生物活性を持つものもあり、その取扱いや管理の方法によっては、生態影響やヒト健康影響などの問題が生じる場合があります。医薬品類、パーソナルケア製品、日用品、合成樹脂等に含まれる生物活性化学物質は、近年、学術的・社会的注目を集めている新興環境汚染物質です。製品の使用に伴い排出されたそれら生活関連化学物質は、下水溝を通じて下水処理場に流入し浄化処理を受けますが、完全には分解・除去されず下水処理水を介して水圏環境へ恒常的に排出されています。その結果、下水処理水の放流河川に棲息する水生生物は生活関連化学物質の慢性的かつ複合的な曝露を受けており、その生態影響が懸念されています。

 

現在、水圏環境における化学物質の生態影響評価は、水生生物を用いた毒性試験により推定される予測無影響濃度と環境水中化学物質濃度を比較することにより実施されています。しかし、化学物質の生物活性は一般に生体内濃度が閾値を超えることで発現すること、そして体内動態(吸収・分布・代謝・排泄)と毒性発現機構の違いが、化学物質に対する感受性の生物種間差を導出することを考慮すると、化学物質の外部環境水濃度だけでなく生物体内濃度、生物濃縮性、動態・動力学機構を理解することが重要です。水生生物における生活関連化学物質の生物濃縮性と動態・動力学機構について、知見の集積と体系的な整理、そして動態・動力パラメータを考慮した生物濃縮性・生態毒性の予測手法が確立されれば、生物種間の外挿・類推に付随する不確実性の低下および生物濃縮性・生態毒性試験の削減が期待できます。

 

当研究室では、生活関連化学物質の水生生物に対する影響を評価・予測するため、[1] 水生生物に残留する生活関連化学物質の高感度一斉分析法の開発、[2] 生活関連化学物質の生物濃縮性および体内動態の解析、[3] 生活関連化学物質の生態影響の評価、[4] 高生物濃縮性を示す要因の探索と生物種間差に関する研究に取り組んでいます。さらに近年は、ノンターゲット分析が可能な液体クロマトグラフ-四重極飛行時間型質量分析計(LC-QTOF-MS/MS)を用いた環境媒体および水生生物に残留する人工化学物質の網羅的スクリーニング分析により、水生生物に対して高濃縮性・生態毒性を示す未規制化学物質の網羅的探知を試みています。