愛媛大学理学部 沿岸環境科学研究センター

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微量分析法の開発

当研究室では、化学物質の環境動態や代謝・分解挙動、生体影響を解析するため、先端分析機器を用いた高感度な定量分析法を開発して多様な環境試料・生物試料を分析しています。化学物質の影響を評価するには、まずそこにどれだけの物質が含まれているか理解する必要があります。その意味では、分析法開発とモニタリングが、すべての研究の基礎であると言えるでしょう。

1. 有機汚染物質
(1) 有機塩素化合物・臭素系難燃剤の定量分析
PCBsや有機塩素系農薬、PBDEsなどの臭素系難燃剤は、主にガスクロマトグラフ−質量分析計(GC-MS)により分析しています。これらの非極性・中揮発性物質は、キャピラリーカラムを用いたGC分析が適しています。また、検出器にMSを用いることで、安定同位体で標識した内部標準物質が添加できるため、前処理におけるロスの補正など、分析精度の管理が容易になります。さらに、当研究室では、国際的に認知されている標準試料の定期的な分析や、海外の研究機関との相互検定に参加することで、精度の維持・管理に努めています。

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(2) 有害代謝物の体内動態解明と生体影響評価
PCBsやPBDEsなどの非極性物質は生体内に取り込まれると薬物代謝酵素(p450)の作用により代謝されます。この際、生成される代謝物の一部には、親化合物より高い生理活性を示すものがあり、体内動態や生体リスクの評価が求められています。当研究室では、ガスクロマトグラフ−高分解能質量分析計(GC-HRMS)を用いて、多様な野生生物やヒトの臓器組織に残留する代謝物を超微量まで分析する方法を開発しました。この分析法により、代謝パターンや代謝力の生物種間差を明らかにするとともに、生体内における毒性寄与物質の特定を試みています。

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(3) 塩素化・臭素化ダイオキシン類縁化合物の分析と動態解析
塩素化・臭素化ダイオキシン類縁化合物についても、その毒性の強さから極低レベルの定量が求められており、GC-HRMSを用いて分析しています。ダイオキシン類縁化合物は、発生源によって特徴的な異性体組成を示すため、微量一斉分析の適用によって汚染源・発生源を特定し、その経時的変化について解析しています。

(4) 新規環境汚染物質の分析と動態解析
近年、ヒトや家畜用の医薬品やパーソナルケア製品に含まれる化学物質(PPCPs)、有機フッ素系界面活性剤、一部の臭素系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤、過塩素酸など新規に登上した化学物質の環境流出が大きな社会問題となっています。これらの化学物質は極微量でも高い生理活性を示すものが多く、高感度・高精度な定量分析法の開発が求められています。しかしながら、これらの化学物質は極性が高いため、GCによる分析が困難です。そこで、当研究室では高速液体クロマトグラフ−タンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用いて、水、土壌、生物など多様な環境試料に残留するこれら化学物質の新規分析法を開発しています。

 

2. 微量元素
環境・生物試料の微量金属の定量法は、各種湿式・乾式分解法と原子吸光光度法、ICP発光分析法、ICP質量分析法などの組み合わせにより、古くから確立されています。現在の微量元素研究における分析化学的な課題は、(1) 形態分析(スペシエーション)、(2) 局所分析、(3) 同位体分析が挙げられ、これらの組み合わせにより局所形態分析、局所同位体分析、形態別同位体分析などの研究も進展しています。当研究グループでは、現在のところスペシエーションと局所分析を中心課題として研究を推進しています。環境試料の、スペシエーションではHPLC-ICP-MS法やX線吸収微細構造法(XAFS)が有効であり、局所分析ではμ-XRF法やLA-ICP-MS法を、局所形態分析法ではμ-XAFS法を適用しています。生物試料のスペシエーションや局所分析はより難易度が高く、SEC (サイズ排除クロマトグラフィー)-ICP-MSやPAGE-LA-ICP-MSによる金属結合タンパク質の分析法を検討中です。微量元素の環境動態や毒性は化学形態に依存するため、これらの試みは環境化学的にも重要な意義をもつと考えています。