愛媛大学理学部 沿岸環境科学研究センター

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平成23年度-研究実績

POPs候補物質の代替品(BTBPE:トリブロモフェノキシエタン、DBDPE:デカブロモジフェニルエタン、DP:デクロレンプラスなどの臭素系難 燃剤)の他、消費量が増加している有機リン系難燃剤(リン酸エステル類)についてLC-MS/MS、GC-MSによる分析法を開発し、イガイや堆積物など の生物環境試料の分析を試みたところ、BTBPEの汚染はアジア地域では未だ進行していないこと、DBDPEは途上国に比べ先進国で汚染レベルが高いこ と、DPを含めこれら代替難燃剤汚染の歴史トレンドは近年上昇傾向にあること等が判明した。また、リン酸エステル類を途上国のヒト母乳から初めて検出し た。ベトナムe-waste処理地域の住民から採取した血液・母乳試料を分析したところ、母乳から臭素化ダイオキシン類が検出され、e-wasteの不適 正処理がその曝露要因となっていることを指摘した。また、血中のバイオマーカーと有害物質濃度の相関解析から、鉛曝露によるヘモグロビンの代謝異常や PCBsによる甲状腺ホルモンのかく乱などが示唆された。カズハゴンドウなどの海棲哺乳動物の血液・肝臓・脳試料等を対象に、PCBs・PBDEsおよび その水酸化代謝物であるOH-PCBs・OH-PBDEsやメトキシ化PBDEs(MeO-PBDEs)を測定し、その体内分布や代謝動態、起源等につい て解析したところ、OH-PCBs・OH-PBDEsが脳に移行すること、鯨類に蓄積するOH-PBDEsの大半は、人為起源のPBDEs代謝物よりも自 然起源のMeO-PBDEsに由来することが示唆された。野生高等生物の抽出液を化学分画し、p,p’-DDEおよび有機スズ化合物が抗アンドロゲン受容 体活性物質であることを同定した。難分解性有機汚染物質とconstitutive androstane receptorの結合アッセイ系を構築し、ポリ臭素化ジフェニルエーテルがハイリスク物質であることを明らかにした。また、水酸化PCBsの暴露による 神経形成異常は甲状腺ホルモンの機能かく乱に起因しないことが示唆された。

平成22年度-研究実績

PBDEsやPFOSの代替物質として使用量の増大が指摘されているHBCDsや短鎖・長鎖のPFCs 9種、さらにUV吸収剤や短鎖塩素化パラフィン等について分析法を開発した。また、バイオアッセイの包括毒性評価値に対する既知物質の寄与割合を化学分析 /バイオアッセイで推定する手法を確立し、実試料へ適用した。まず、ヒトの母乳試料の分析を試み、POPs候補物質による汚染がアジア全域に及んでいるこ とを実証した。またPBDEsなどの難燃剤は、途上国にも汚染源が存在することが示唆された。そこで、ベトナムやインドの電子電気機器廃棄物処理地域を対 象に住民や作業従事者の血液・毛髪、作業環境大気やダスト試料の分析を試み、発生源における曝露ルートを解明するとともに取込量の解析から難燃剤のリスク が危惧されることを指摘した。また、愛媛大学の生物環境試料バンクに保存されている水棲哺乳類や柱状堆積物の試料を分析したところ、先進国のHBCDs汚 染が近年急速に進行したこと、途上国のPBDEs汚染も経年的に拡大したこと、外洋など遠隔地のHBCDsおよびPFOS汚染が今世紀になって急上昇して いること等が判明し、途上国および遠隔地のPOPs候補物質汚染は今後しばらく継続するものと推察された。さらに、野生生物およびヒトの血液試料を対象に PCBs・PBDEsの水酸化代謝物を同定・定量した結果、陸棲哺乳類は海棲哺乳類に比べ代謝物の蓄積量が多く甲状腺ホルモン撹乱等のリスクが懸念され た。また、窒素・炭素安定同位体比を用いた海洋生態系食物網の解析から、PBDEs等新規POPsの生物濃縮特性を明確化した。加えてPPAR遺伝子を利 用したレポーター遺伝子アッセイ系を構築し、野生生物を対象としたフッ素化合物の毒性リスクを評価した。また、アンドロゲン・エストロゲン・Ah受容体結 合/レポーター遺伝子アッセイバッテリーを野生高等動物へ適用し、内分泌かく乱化学物質の潜在的なハザードリスクを明らかにした。

平成21年度-研究実績

POPs候補物質のPBDEs、HBCDs、PFOS関連物質、PCB水酸化代謝物さらにSCCPs(短鎖塩素化パラフィン)、エンドルファン等につい て分析法を開発し、 前処理方法の改良やLC-MS/MSとGC-HRMS(EI及びNCI法)機器分析の高感度・高精度化と最適化を達成した。 未知有機ハロゲン化合物の検索・同定等にはGC-(HR)TOFMSの有用性を確認した。 TIEアプローチとしてバイオアッセイ/マイクロアレイ等と化学分析の統合評価から、未知の活性物質として臭素系化合物が示唆された。 開発した分析法は本研究対象の実環境試料のモニタリングに順次適用し、インドやベトナムなどアジア途上国の廃棄物投棄場や電子・電気機器廃棄物(e- waste)処理施設から 採取した土壌やダスト試料等を対象に、臭素系難燃剤(PBDEs、HBCDs)や臭素化ダイオキシン類(PBDD/Fs)などのPOPs候補物質を測定し た。 また、ダストについては、試料のダイオキシン様活性測定のためバイオアッセイ‘DR-CALUX’を適用した。 その結果、アジア途上国の廃棄物投棄場や e-waste処理施設周辺の環境において、先進国の工業地域に匹敵するPBDEs汚染の拡大が明らかとなった。また、e-waste処理施設のダスト試 料からは、高濃度のPBDD/Fsが検出された。クロアシアホウドリのAHR/レポーター遺伝子アッセイ系を構築して、 ダイオキシン類に対する同種の感受性を明らかにし、生態リスクを評価した。また都市港湾底質を対象に、核内受容体/レポーター遺伝子アッセイと化学分析の 結果の関連性を解析し、 アンドロゲン、エストロゲン、甲状腺ホルモン、プロゲステロン受容体原性とPCBs、BFRs濃度の間に関連性を見出した。 さらに、マイクロアレイデー タの新規解析法を確立し、グルココルチコイド受容体アゴニストに応答する遺伝子群を明らかにするとともに、それらの影響について評価した。

平成20年度-研究実績

初年度は、既存物質の分析法の整備、新規臭素系難燃剤等の分析法の開発と適用、リスク評価法の開発と検証および海洋汚染の実態解明に関する研究を実施した。
臭素系難燃剤HBCDsの各異性体(α,β,γ)についてLC-MS/MSによる分析法を開発し、日本や他のアジア沿岸域から採取した二枚貝(イガイ) の残留濃度を測定した。 その結果、アジア沿岸域の中でも日本におけるHBCDs汚染が顕在化していることが明らかとなった。さらにPFOSやPFOAなどパーフルオロ化合物9種 についてもLC-MS/MSによる分析法を確立し、北太平洋や日本海・東シナ海・インド洋の沖合・外洋域から採取したカツオ肝臓中の濃度を測定した。 その結果、測定した全ての検体からPFOSやPFUnDAが検出され、この種の物質よる外洋域への汚染拡大が明らかとなった。また、長鎖のパーフルオロ化 合物であるPFUnDAの濃度は東アジアの沖合域で高く、これら物質の発生源が先進工業国から東アジア地域に移動していることを示唆した。
さらに、PCB代謝物である水酸化PCBの分析法を開発するとともに、未知物質とくにに有機ハロゲン化合物の検索・同定にGC-(HR)TOFMSが有用であることを確認した。 カワウやアホウドリ・ハシブトガラスのAHRを導入したレポーター遺伝子アッセイを構築してダイオキシン類によるCYP1A転写活性化を測定し、各生物種固有の毒性等価係数を 提示した。 またAHRやER・AR・GR・TRを導入したDR-CALUXアッセイ法を用いて堆積物試料に含まれる化学物質のアゴニストおよびアンタゴニスト活性を測定したところ、臭素系難燃剤による活性寄与が示唆された。 さらにカワウの遺伝子を搭載したマイクロアレイを作製し、化学汚染の影響を判別する統計学的手法を開発した。

野見山 桂